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改正省エネルギー法についてのコラム

改正省エネルギー法についてのコラムを書きました。
多くの方に知っていただきたいと思います。


消費者ニーズの「新産業・新市場の創出」を考えよ

3月2日に官邸において「イノベーションによる新産業・新市場創出」をテーマとする第2回国家戦略会議が開催された。国交省から示された「新産業・新市場の創出」に向けた取組は①低炭素・循環型システムの構築②観光・航空需要の喚起③不動産投資市場の活性化、PPP/PFIの活用、インフラの海外展開であった。建築関係として主として①新築住宅のゼロエネ化②既存ストック5千万戸の省エネ対策③都市・建築物・交通の低炭素化促進が提案されている。

理念として省エネルギー化、低炭素化に異論を唱えるものは少ないであろう。しかし、私には違和感をぬぐいきれない。価値観の多様性が欠如し、消費者ニーズではなく供給者論理で需要を喚起し、選択の自由を許容しない、智恵のない社会をつくり出そうとしているからである。提案されている実体はどれも省エネルギー化、低炭素化の理念に反して地下資源を使い、無理に消費を煽り、結果として不況を招くことになると思われる。

省エネ化は脱化石燃料社会の構築には必要である。しかし、提案されているゼロ・エミッション住宅は太陽光パネルや石油系もしくは鉱物系断熱材を使い、動力の空調で室内の温熱環境を整えるものである。ライフサイクルコストは高く、化石資源をより使用することになる。すべて新工法で設備機器を必要とし、工業製品でできている。実績のない新工法でできた住宅は世代を超えて住み継がれる保証はない。技術の進歩は早く、10年単位で新技術が開発されるので太陽光発電などの30年で回収される設備投資は無駄になる。たとえ30年使用続けたとしても新たな設備投資が必要になる。

省エネルギー化は次世代省エネルギー基準の義務化がほぼ決定されている。土壁または板壁の伝統構法木造で薪ストーブやペレットストーブを使用している住宅は暖冷房に化石燃料を使わない。世代を超えて住み継がれている実績もある。しかし、次世代省エネルギー基準には適合しないので義務化された場合には新たな断熱が必要になる。蓄熱性、調湿性が特徴の土壁は外断熱することで逆の作用をしてしまう。次世代エネルギー基準では土壁以外でも木造真壁工法は困難である。東北地方の高断熱化は必要であるが関東以西では高断熱化よりも暖冷房で化石エネルギー・化石資源を使わない工法の方が理念に沿っている。国が一律の基準を強制することは選択の自由の阻害、それぞれの地域で培ってきた建築技術の否定、生産システムの破壊をもたらす。

国が想定している住宅は省エネルギー化、低炭素化ためにかける初期投資は2000万円の住宅でも数百万円かかる。さらに消費税増税で100万円上乗せされる。戸建て木造住宅であれば仕様規定で目的を達成できるので改めてCASBEE評価の必要はないが、敢えてCASBEE評価の申請を義務化すれば申請費、申請書作成費の消費者負担が増すことになる。 原発停止でエネルギー確保が迫られている政府は省エネルギー推進と消費税増税のための景気浮揚のネタ探しにやっきになっている。高断熱化の改修工事はその両方の要求を満たし、建材・設備・建設業者、天下り機関にとってもおいしい三方良しの政策で日本全体で1~数兆円の市場創出を目論む。しかし、省エネルギー効果は日本全体の1%に過ぎず、新築で100万円、改修で220万円(村上氏試算)をかけるほどの費用対効果は低い。インセンティブを与えるために減税や補助金などで1兆円程度の税金を使うことになり、税の使い途としては逆進的であり、税の無駄遣いでもある。高断熱化と増税によって建設費は20%程度コストアップするために着工戸数は30%程度落ちこみ、結果として4~5兆円の市場が喪失することになる。

もともと高断熱化の提案は2010年4月7日に前田国交大臣が所属する「健康・省エネ住宅推進議員連盟」に対して行った建築研究所理事長村上周三氏のプレゼンが大きな位置を占めていると思われる。そのプレゼンの資料を読み解くと高断熱化に対する疑問が湧いてくる。高断熱化の必要な理由として、冬期のヒートショックによる入浴中の急死者を減らすためとしている。しかし、死因の分析がなく、このデータではヒートショックが原因の急死者が何人かは不明である。また、通常の断熱工事と次世代省エネルギー基準の断熱工事との比較データはないので効果が不明である。もし本気でヒートショックによる急死を回避するのであれば浴室周りの部分断熱と局所暖房を徹底した方が普及が早い。高断熱化工事の投資回収年数を計算するのにわざわざ暖房費を平均の2倍で想定し、それでも新築住宅で29年、改修で63年かかるため、断熱工事を普及するためには別の理由が必要であるとしている。その別な理由として、「風邪の罹患率」や「省エネ以外の便益」などの定性的な要因を持ち出し、「健康維持増進効果を考慮すれば投資回収年数を大幅に短縮できる」というむちゃくちゃな論理を披露している。全国一律に高断熱化する目的もそれによる効果もまったく検証されていない。地球温暖化対策、省エネルギー、健康維持という誰も否定しないお題目を掲げながら、ただただ断熱工事の市場創出とCASBEE普及という下心が透けて見える。 このままで法改正がなされたり、国家戦略に盛り込まれることに対して、危機感を感じるは筆者のみであろうか。

国交省の「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」の議事録が公開途中であるのでわからないが、委員から低炭素化の根拠となる地球温暖化対策の「CO2 25%削減」効果の客観的なデータの確かさと「CO2 25%削減」の政策の継続性の問題を指摘している。さらに規制強化による財産権の制約や既存不適格に対する扱い、建築基準法上の位置づけ、都市計画法(筆者注:再生可能エネルギー導入時の容積率の緩和など)との関わり、環境行政との関わりなど、法体系のあり方や権利侵害を含むので、単純に新市場創出では片付かないことの認識不足を指摘しているように読み取れる。これらの問題を政策として実施するときまでに解決できているか監視する必要がある。伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会でようやく伝統構法の設計法が開発されつつあるが、改正省エネルギー法によって再び本来の伝統構法木造が建てにくくなる。

民主党政権では低炭素社会の実現が当然のごとく政策になっているが、政権交代すれば政策転換も大いにありうる。関連する「地球温暖化対策基本法案」は2010年3月に閣議決定したものの、同年6月に廃案、継続審議中であるが、自民党は撤回を求めている。同年5月の衆議院環境委員会で自民党委員からCO2 25%削減はIPCCからの要請ではなく、民主党政権の自主規制だと主張し撤回を求めた。筆者はこれまでのコラムで綴ってきたように近い内に地球温暖化対策は方向転換を迫られると考えている。太陽の観測や南極の気象観測から地球温暖化から寒冷化への兆候は現れている。低炭素化の根拠となる自然現象が変化した場合、温暖化対策などの政策転換を遅滞なく対応しなくてはならない。

経産省の試算で温暖化対策に2020年までに190兆円を費やすことになり、全てが無駄ではないが、喫緊の課題は地球温暖化対策ではなく、東日本震災復興と3連動地震への備えが優先される。第二の福島原発事故を起こさないために54基の原発の核燃料棒冷却のための電源確保が優先される。住宅では高断熱化よりも耐震化が優先すべきであり、改修工事の市場を創出するのであれば耐震補強、衛生設備の更新、断熱がバランスよく工事費の配分ができるように補助金の要件を見直すべきである。新市場の創出には、国の都合、供給者論理ではなく、国民の視点に立ち、消費者ニーズに応える形で景気を浮揚する政策を講ずるべきである。再び見誤ると「改正省エネルギー法不況」と「CASBEE不況」とも呼ばれる経産省・環境省・国交省合同の官製不況をもたらし、日本が沈没することを肝に銘じてほしい。

江原 幸壱 木の建築設計

●「新産業・新市場の創出」に向けた取組http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120302_2/shiryo8.pdf
●健康・省エネ住宅のすすめhttp://www.maetake.com/resource/100407_murakami_text.pdf
●まえたけだよりWeb版http://ameblo.jp/maetake-diary/entry-10525366494.html#main
●健康・省エネ住宅のすすめhttp://www.maetake.com/resource/100407_murakami_text.pdf
●低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000023.html
●日本の温室効果ガス排出の実態~排出量公表制度分析http://www.kikonet.org/research/archive/disclosure/CO2emission_analysis2007.pdf
●衆議院環境委員会齋藤建(自由民主党・無所属の会)http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=40409&media_type=
●新築住宅に省エネ基準適合義務 http://www.47news.jp/CN/201201/CN2012012701002325.html
●改正建築基準法が日本の破壊を招く http://janjan.voicejapan.org/living/0709/0709031756/1.php
●『建築ジャーナル』「建築と政治」全記事> > http://www.kinokenchiku.biz/writing.html

『建築ジャーナル』4月号本誌をご覧ください。

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